はじめに
私たちは毎日、たくさんの情報に囲まれて生きています。そんな中で、何に気づいて、何を無視しているのでしょうか?ゲシュタルト療法では、私たちが物事をどう見ているかを説明するのに、「図と地(Figure and Ground)」という考え方をとても大切にしています。これは、私たちが世界をどう認識しているかを示しています。今回は、この「図と地」が私たちの心の動きとどう関係しているのかを見ていきましょう。
「図と地」とは何か
「図と地」とは、私たちが何かを認識するときに、意識の中心にハッキリと浮かび上がるもの(図)と、その背景にあるもの(地)を区別する心の働きのことを言います。
一番有名な例は、「ルビンの壺」という絵です。この絵を見ると、白い壺が真ん中に見えたり、向かい合った二人の顔が背景に見えたりします。同時に両方を見ることはできませんよね。意識が壺に注目すれば壺が「図」になり、顔が「地」になります。逆に顔に注目すれば顔が「図」になり、壺が「「地」になるのです。
私たちの普段の生活でも、この「図と地」は常に働いています。例えば、
にぎやかなカフェで友達と話しているとき、友達の声が「図」になり、周りのガヤガヤした音が「地」になる。
仕事でプレゼンテーションの準備をしているとき、プレゼンの内容が「図」になり、部屋の散らかった状態が「地」になる。
体調が悪いとき、体の痛みや不快感が「図」になり、普段は気づかない健康な部分が「地」になる。
このように、私たちは常に、意識の中心に何かを「図」として浮かび上がらせて、それ以外のものを「地」として背景に置いています。
ゲシュタルト療法で「図と地」が大切な理由
ゲシュタルト療法が「図と地」を大切にするのは、この物事の見方が私たちの心の健康と深く関係していると考えるからです。
健康な状態のとき、私たちは自分の必要や関心に合わせて、必要なものが自然と「図」として浮かび上がります。それが満たされると「地」に戻り、次に必要なものが「図」として現れるという、スムーズな流れが起きます。例えば、喉が渇けば「水」が図として浮かび上がり、水を飲んで喉の渇きが癒されれば、水は地に戻り、別の必要(例えば、眠気)が図として現れる、といった具合です。
しかし、心に問題がある場合、この「図と地」の流れがうまくいかなくなることがあります。例えば、
終わっていないことが「図」として残り続ける:過去のまだ処理しきれていない感情や欲求(未完の仕事)が、いつまでも「図」として意識の中心に居座り続け、他の大切なものに気づくのを邪魔します。まるで、終わったはずの映画のある場面が頭から離れないような状態です。
大切なものが「地」に隠れる:本当は気づくべき大切なことや、満たすべき必要が「地」に隠れてしまい、意識に上ってこないことがあります。これにより、問題が解決しなかったり、満たされない気持ちが続いたりします。
セラピーの場では、セラピストはクライエントが何に「図」として注目し、何を「地」として背景に置いているのかに注意を向けます。そして、クライエントが意識的に「図と地」を切り替えたり、隠れている「地」に気づいたりするよう促します。これにより、クライエントは自分の物事の見方のパターンに気づき、より柔軟で健康的な「図と地」のプロセスを取り戻せるようになるのです。
日常生活で「図と地」を意識するヒント
「図と地」の考え方は、日常生活であなたが意識を向ける方向を変えるヒントになります。
意識して注目するものを変える:目の前の問題にとらわれすぎていると感じたら、一度意識を広げて、その背景にあるものや、他の可能性に目を向けてみましょう。例えば、仕事の失敗ばかりに意識が向いているなら、成功した経験や、支えてくれる同僚の存在に意識を向けてみる、といった具合です。
五感を活用する:普段意識しない「地」にあるものに意識を向けてみましょう。例えば、歩いているときに、足の裏の感覚や、風の音、遠くの匂いなど、普段は意識しない感覚に注目してみる。
感情の奥を探る:強い感情が湧いてきたとき、その感情が「図」として意識に上っているとして、その感情の「地」には何があるのかを探してみましょう。例えば、怒りの「地」には、悲しみや不安が隠れているかもしれません。
これらの練習を続けることで、「図と地」の働きに気づき、あなたはもっと広い視野で物事を捉え、心のバランスを保つことができるようになるでしょう。
まとめ
「図と地」は、私たちが世界を認識する心の働きです。ゲシュタルト療法では、この物事の見方が心の健康と深く関係していると考えます。意識的に「図と地」を切り替え、隠れている「地」に気づくことで、私たちはより柔軟で健康的な自分を取り戻し、充実した毎日を送ることができます。今日からあなたも「図と地」の視点から、あなたの世界を見つめ直してみませんか?
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