グループセラピーのメリット−ヤーロムの11の治療的要因

ゲシュタルト療法は、個人セッションのなかで用いられることもありますが、グループセラピーとして実施されるのが一般的です。

アメリカの精神科医でグループセラピーの第一人者であるヤーロム博士(Irvin Yalom)は、グループセラピーには次のような11の治療的要因があると言います*。ゲシュタルトだけでなく、エンカウンターグループなどにも共通している因子ですが、11も良いことがあるというので、ここでちょっと紹介してみましょう。


*Irvin D. Yalom, Molyn Leszcz, ’The theory and practice of group psychotherapy’ Basic Books, 2020

1.希望がもてる

「希望をもたらす」( Instillation of Hope)。グループセラピーでは、それぞれのメンバーが勇気を出してチャレンジしたり、変化する姿を共有することができます。メンバーの成長を目にすることで、あなた自身も未来に希望を抱くことができるようになります。

2.みんな同じ人間だ

「普遍性」(Universality)。  グループセラピーは、メンバー同士が自分だけが苦しんでいるのではないと気づく場でもあります。他の参加者の体験や感情に共感し、共通点を見出すことで孤立感が減り、共感とサポートを感じることができます。

3.知恵をわかちあう

「情報の伝達」(Imparting Information)。グループセラピーでは、参加者が互いに必要な情報を共有し合います。知識や知恵、役に立つ情報を共有することで、自己理解やセルフサポートが深まります。

4.助け合い・支えあい

「愛他主義」(Altruism)。グループのメンバー同士がお互いに助け合うことで、自分の役割や価値を感じることができます。

5.家族関係のやり直し

「初期の家族関係の修正的繰り返し」(Corrective Recapitulation of the Primary Family Group)。グループのなかで、メンバーは過去の家族関係で身につけた(今ではあまりうまくいかない)パターンに気づき、新しい関係性や役割を試すことができます。

6.社会的スキルを学ぶ

「社会適応技術の発達」(Development of Socializing Techniques)。グループセラピーは社会的なスキルの向上に役立ちます。コミュニケーション、対人関係、協力などのスキルを学び、実践することで、社会生活での適応力が高まります。

7.互いを手本に

「模倣行動」(Imitative Behaviors)。グループのメンバーが自らの問題や課題に向き合い、成長していく姿は、自身の成長や変化のモデルとなります。

8.人間関係を学ぶ

「人間関係の学習」(Interpersonal Learning)。グループは参加者が人間関係や親密さ、率直なコミュニケーションについて学ぶ場となります。自分と他者との関係性を理解することで、対人関係が楽になります。

9.居場所ができる

「グループの凝集性」(Group Cohesiveness)。グループに所属して受け入れられることで、自己開示や新しいかかわり方へのチャレンジが後押しされます。グループのまとまりが高まると、「ここは自分の居場所」「ここにいていいんだ」という感覚が強まります。

10.感情の解放

「カタルシス」(Catharsis)。受け入れられる環境で感情を表現することで、抑圧されていた怒りや恐れ、不安などの感情が解放されます。感情の表現によって気づきや変化が生じ、回復に向けたプロセスが促進されます。

11.苦しみを生き抜く

「実存的要因」(Existential Factors)。人生には、喜びだけでなく、苦しみや悲しみも避け難く含まれています。グループでの対話を通じて、こうした体験に向き合い、生き抜く勇気とサポートが得られます。ときには人生の意味について深く語り合う機会となるかもしれません。

ゲシュタルト・グループセラピーも、ヤーロムの言うこうした治療的要因を備えています。

ヤーロムは、小説『人間嫌いが笑うときーヤーロム博士が描くグループセラピーにおける生と死の物語』(星和書店、2023年)の中で、主人公のユリウス(グループセラピストです)に次のように語らせています。

「グループ・セラピーのゴールに関してははっきりと断定できる。セラピストも含め、お互いがお互いとどう関わり合っているかについて理解することだ。グループでは【今ここ】の体験に集中する。(中略)つまり、グループでは、今に集中し、それぞれのメンバーの過去を深く探る必要はない。グループの今この瞬間とグループの関係性に集中する。グループのメンバーは過去の困難だった状況でしたのと同じような行動をグループの中ですると想定されるし、グループの関係性で学ぶことをやがて、グループ以外の関係性にも汎化させていくとも想定される」p.97

グループの「今ここ」の関係性での学びが、日常の人間関係をより豊かにしていくということですね。